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『鬼滅の刃』をプロコーチ4人が語る—なぜ炭治郎が主人公なのか—

家族を鬼に殺された竈門炭治郎が、鬼になった妹の禰豆子を人間に戻すために旅立つ……『鬼滅の刃』。

2020年に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は興行収入400億円、国内歴代1位を記録し、社会現象になりました。2023年4月9日には新作「刀鍛冶の里編」が放送され、これも大きな話題に。

プロコーチが多数所属するTHE COACHでも鬼滅の刃の人気は高く、「あのキャラって実は…」「人間と鬼の関係って…」と雑談から議論が白熱することもしばしば。

そこで今回は、「鬼滅の刃を語りたい!」という4人のコーチをお呼びし、座談会を実施。鬼滅の刃が描いてるもの、炭治郎という主人公像、そして鬼というからコーチたちが感じたことについてお話いただきました。

話し手1.ゆけちゃん:深沢 勇介
ライフコーチ、THE COACH ICP講師。国際コーチング連盟認定PCC。15年間のコンサル人生から一変、コーチとして独立。独立を機に地方移住、大学講師、禅修行など、自分の心に従った挑戦を続けている。
好きなキャラは、愈史郎。一途で愛おしいから。

話し手2.ひろにい:石川 博基
人事コンサルタント/コーチ。コスモスイニシア(旧リクルートコスモス)と同社子会社にて人事領域の変革とマネジメントを担う。2022年より人事コンサルタントとして独立。人事制度などのハード、関係性などのソフトの両面から組織の変革をサポートしている。
好きなシーンは、単行本7巻19ページ。炭治郎とカナヲの2人がコイントスを行うシーン。

話し手3.もっちゃん:本橋 竜太
ライフコーチ、THE COACH ICP講師。Burger King Japanをはじめ主に外食産業にて人材組織開発に従事。豪州Global Coaching Institute出身。国際コーチング連盟認定PCC。
好きなキャラは、煉󠄁獄さん。猗窩座に「お前も鬼にならないか?」と誘われたときの返答が最高。

話し手4. こっちゃん:松下 琴乃
早稲田大学卒業後、外資系金融機関にて、マーケティングに従事。2012年に独立。現在はU理論や成人発達理論をベースとしたコーチングやファシリテーションで個人と組織の変容・変革をサポートしている。
好きなキャラは、伊之助。コミュニケーションがややこしくなさそうだから。


鬼滅の刃は「浄化と癒しの物語」

ゆけちゃん:鬼滅の刃は「浄化と癒しの物語」だと思っています。ただ単に主人公が悪を滅する勧善懲悪の物語ではなくて、鬼にも過去や痛みがあって、そこがきちんと深堀りされる話。鬼が死ぬときには、炭治郎との会話を通して、過去と向き合って精算されて浄化されていく。「過去と痛みが癒やされていく」様子が多くのシーンで描かれているのが印象的な作品でしたね。

ひろにい:分かります。僕は「弱さ」や「葛藤」みたいなのもキーワードだと思っていて。『ドラゴンボール』や『ワンピース』などの王道のヒーロー漫画の主人公サイドって結構みんな強いじゃないですか。でも鬼滅の刃は、弱い自分と葛藤しながら強くなっていく登場人物が多かったなと思いましたね。鬼側に目を向けてみれば、たとえば鬼舞辻無惨は死や老いから逃げたいという弱さからああなっちゃったんだろうなとか。そんな風に、自分や人の弱さに向き合う、葛藤するシーンが描かれている気がしました。

もっちゃん:めちゃくちゃ大枠で捉えると「人生を生きる」、それがどういうことかが何度も表現されている作品だなと僕は感じています。なかでも、それを感じたのが、鬼殺隊の親方様と無惨が持つ思想の対比。「老い」と「死」に対する考えが真逆だなと思ったんですよね。

親方様は「永遠というのは人の想いだ」と言い、想いを言葉に託し、他人に語りかけ、肉体自体が老いること、死ぬことは受け止めていた。反対に、無惨は誰とも対話することはなく、肉体に永遠を求め、死や老いを恐れ逃れようとしていた。

でも、老いや死は生きる限り必ずやってくるもので、それにどう向き合うかが、自分の人生を生きることに直結している。そんな示唆をいろんなキャラクターの言葉で感じさせてくれる作品で、読むたびに今を一生懸命生きようと思わせてくれる話だと感じています。

こっちゃん:私は「人間くさくない」作品だな〜と思いましたね。作者のエゴイスティックなところが感じられないところが面白かった。

鬼滅の刃は、人の感情が俯瞰されたところから丁寧に描写されていて、メタ的というか少し遠いところから人間が描かれているように感じたんですね。

登場人物を通じて作者のエゴが感じられたり、正義と正義、感情と感情が生々しくぶつかったりしている作品は、私たちと近いがゆえに結構パターン認識できることも多いんですね。その一方、鬼滅の刃は物語的にも展開が読めなくて個人的には好きでした。

炭治郎は、めちゃくちゃ普通で異様な主人公

ひろにい:主人公の炭治郎も、少年漫画には珍しい主人公像でしたよね。火の呼吸みたいな血統はありながらも、最後の最後までそんなに強くない。精一杯やるけど、力及ばずいろんな人が死んでしまうし、仲間の力を借りながらなんとか倒すというシーンしかない。『ドラゴンボール』とかだと主人公の悟空以外がメインの敵を倒す場面ってほぼないんですけど、『鬼滅の刃』は「全員で力を合わせて」というのが強調されている。「人の想い」の連なり、重なりみたいなものを作品を通してずっと感じていましたね。

ゆけちゃん:自分は、まぁ言っても炭治郎は天才だと思っていました。最初の冨岡義勇と戦うときの斧の使い方とか戦闘センスを感じる場面がけっこうあって。でも、炭治郎に対する1番大きな印象って「戦闘の強さ」ではなくて、「礼儀正しい」という点なんですよ。

誰に対しても誠実で尊重している。どんな小さなことでも、自分の倫理観やルールに反することは行わない。挨拶をきっちりする。これが炭治郎の強さなんじゃないかなっていうふうにも考えていて。

相手や場面によって、ルールや思想を変えないことで、心が澄み渡っていってシンプルに意思決定ができて、自分のリソースを100%引き出せる。それが心を燃やせるという状態なのかな〜みたいな。主人公の礼儀正しさを描く作品は多くないなかで、執拗にそこが描かれ続けたのにも理由があるだろうなと考えています。

こっちゃん:私は「炭治郎、めちゃくちゃ普通だな」という印象です。炭治郎以外のキャラクター、みんな濃いじゃないですか。だから、あの作品で1番普通なのが炭治郎だった。自己主張もあんまりしなくて、ただただ良い人って感じ。

でも、実世界に炭治郎みたいな人がいるかと言ったら私は見たことなくて。あそこまで捻くれていなくて、「愛」が溢れている人はいなくて、それが炭治郎を主人公にしていたのかなと。その愛が鬼を癒やして、世界を救っていく。そういう構造の話なのかな〜という印象がありました。

もっちゃん:めっちゃ分かります。僕は、現代において足りていないものを炭治郎に全投影させている感じがしていたんですよね。真っ直ぐさもそうだし、炭治郎がよく言う「頑張れ!」「負けるな!」みたいな自分と向き合う葛藤もそう。それらの価値を分かりやすく読者に伝えてくれているなって思っていました。

ゆけちゃん:一方で、炭治郎の変化や感情については、あまり深く描かれていないのも面白いんですよね。鬼や柱は、過去の痛みに関するシーンがあったり、成長・変化が象徴的に描かれていたりするけど、炭治郎に関わる場面は少なくて、炭治郎が悲しみにくれるようなページはほとんどない。煉獄さんが死んだときもほかの漫画だったら、悲しみからの再生する様子が描かれそうなものを、炭治郎は我々が知らないところで割り切っている。

そんな主人公の作品が今の社会で人気が出ているているのが面白いな〜と思うんですよね。いま求められている強さの形が感じられるような気もします。

鬼滅の刃における“鬼”が表現するもの

ゆけちゃん:鬼の過去や痛みについての話がありましたけど、鬼滅の刃は“鬼”という存在を使って人間のことを描いていますよね。人間の影の部分。コーチング・心理学の用語で言えば「シャドウ」を表現している。

(シャドウは「社会に適応するために、無意識に抑圧・排除していった自分の人格」を表す言葉。「いてはいけない、誰にも知られてはいけない」と感じている自分の側面)

孤独、嫉妬、恐怖。「一人になりたくない」「認められたい」「死にたくない」という欲求は、誰しもが持っているものでしょう。鬼側の正義は、そこにある。痛みや寂しさに溢れた、目の前の現実を変えたいという欲求から鬼になっているんですよね。

もっちゃん:そうそう、だから無残がやっていることってある種の救済なのか…とも考えていたんです。病気に苦しんでいる人を鬼にすることで回復させたり、妹が殺されて憔悴する妓夫太郎の目の前に現れ妹を鬼として蘇生させたり。

ただ、一見救済的なのだけど、一度鬼になったら人を食べる必要があり、無残に完全に支配されるという条件もある。それって、受け入れたくない現実から目を背けるために、ほかの人を攻撃したり、自分から自由を捨てたりすることで……これを“鬼になること”と捉えると現実でも“鬼”になってしまう場面って結構あるよなと思うんです。

こっちゃん:あるよね〜。私もたまに鬼舞辻無惨になる。

ゆけちゃん:自分のなかの“鬼”というのもあるよね。他の人がなんにも気にしない部分だったとしても、“自分が嫌悪する自分”がいれば、それは中から自分を食っていく。無視したり、気にしないふりをしてもいなくなってはくれなくて、心に痛みを生み、人生を狂わせることだってある。

ひろにい:うん、自分の弱さとか見たくないものを受け止められずにいるとき、他人にそこを指摘されたりすると、反射的に怒ってしまうのってけっこう多くの人が経験あるんじゃないかなと思うんです。弱い自分、見られたくない自分を隠そうとすればするほど、身体や思考が硬くなって自分の感情がコントロールできなくなる感じはあるなと。

また、鬼という言葉の語源も「おぬ(隠)」が転じたものらしくて。自分の弱さや現実を受け止めずに隠そうとすることから、鬼化が始まってしまうのかもなど考えました。(※語源は諸説あります)

こっちゃん:あと、最後にもう一つだけ。『鬼滅の刃』では、社会からいないものとされたり、配慮されなかったり、あるいは差別されたりするマイノリティーな人々が無惨に目をつけられて鬼になることが多かった気がしていて。そういう社会構造は現実でもあるじゃないですか。倫理的に悪とされる行動をした人も、最初から悪人だったかといえば、そうではなくて。背景にはマイノリティーが搾取される社会課題があったりする。

そういった面でも、悪とされている鬼の声を聞くこと、知ろうとすることは絶対に必要だなと思うんですね。炭治郎がそうしたみたいに。

炭治郎は、鬼について「その境遇はいつだって ひとつ違えばいつか自分自身がそうなっていたかもしれない状況」と言い、鬼に自分を重ね合わせていた。

炭治郎は強くはなかった。でも、柱やほかの仲間になくて、炭治郎が持っている素質があった。それが「鬼への想像力」だと思うんです。

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