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「人と組織が持つポテンシャルをコーチングで開花させたい」コーチングをリーダーシップの基盤構築のために推進する理由

「コーチング」とは、コーチとクライアントによる1対1の個人的な対話に留まるものではありません。ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化し、事業展開や働き方が複雑化し、不確実性が高まるこの時代。どのような変化にも対応できる「組織力」が求められています。
 
変化に強く、自律したプロフェッショナル集団を創っていくための効果的なアプローチとして注目されているのが、コーチングです。
 
今回の取材では、人財開発、リーダー育成、組織開発、さまざまな立場で人と組織に関わっているディアジオジャパンの人事部長小林綾子さんがコーチング導入を通じて、どのような未来を実現したいのかを伺いました。

ディアジオジャパン 人事部長:小林綾子さん
オレゴン州立大学心理学部卒業。大学卒業後、外資系生命保険会社アフラックに入社。経理部決算課にて財務諸表作成業務に従事。キャリアの側面で人々の人生を支援したいとの想いから、人材紹介会社(株)JAC Recruitmentに入社し、キャリアコンサルタントに転身。2014年より(株)エアアジア ジャパンに入社し、航空ビジネスを日本で立ち上げるべく、人事マネージャーとして勤務し、就航後は、マレーシア本社でグローバル全体の人事企画に従事。2020年からはディアジオジャパン株式会社で人事部長。

「自分らしく生きる人が溢れる元気な社会を実現したい」その想いがコーチングとの出会いにつながった

——小林さんのキャリアについて教えていただけますか?
 
私のキャリアは少しユニークです。現在外資系企業の人事部長を務めていますが、大学卒業後のキャリアは畑違いの経理でスタートしました。
 
もともと経理のキャリアを目指していたわけではありません。私は、15歳のころからずっと航空会社で働く事を夢見ていました。世界をつなぐ仕事したいという願いのもと、国際的に活躍できる人間になるために、語学力はマスト!と思い、学生時代は留学を目指してアルバイトに明け暮れていました。
 
高校時代は冬にはマイナス20度になるような環境で、ソリに乗せて毎朝新聞配達をする生活でした。大変な仕事ではありましたが、夢と共に生きてる感覚がすごく幸せで。この時間を通じて、「自分らしく、目的意識もって生きること」が、いかに人生に充実感をもたらせてくれるかを学びました。この経験が、その後の人生でコーチングを始める理由につながったと思います。
 
晴れて大学で留学を実現し、いよいよ航空会社での夢をかなえるべく就職活動開始!という年に、アメリカで同時多発テロが発生したんです。当然その煽りを受け、航空業界は一気に冷え込み、自分が長年夢にしていた業界への道があっけなく閉ざされました。
 
就職氷河期の上、何がしたいかもわからなく、就職浪人。自分自身と向き合う中で、発展途上国にいつか学校を建てたい!という新しい目標が生まれました。未来の選択に悩む中で気が付いたんです。「悩めること」が実は幸せなんだって。
 
選択肢が溢れているから悩むわけで、良質な教育を受けさせてもらったからこそ未来が選択肢で溢れているんだなと気が付きました。教育を当たり前に受けられる国で育ったことへの感謝の想いが溢れました。世界に目を向けると、選択どころか、今を必死に生きることに精一杯な人がたくさんいて。教育を求める人にその機会を提供することで、その人が、自分らしい未来を選択することに貢献したいなと思うようになったんです。そして、その為にはお金が必要だからファイナスを勉強しよう!と思い、外資系金融機関の経理部に就職をしました。
 
ただ3年間勤務をする中で、経理の仕事が自分らしさや強みを発揮できるものとは異なっていることに気が付いたんです。数字の正確性や思考力が強く求められる職種なのですが、それが自分の強みとは全く異なる領域で、周りからたくさんサポートをもらい、どれだけ一生懸命頑張っても、パフォーマンスが上がらない状況が続きました。できない自分を責めることで自信を失い、自己肯定感もどんどん低下していってしまいました。パフォーマンスの良し悪しもありますが、それ以上に自分らしさを感じられないことや、自分が輝きを失っていくことに焦りを感じて、四苦八苦する日々が続きました。
 
この経験を通じて学んだことは、自分らしさは、自分で守っていかなくてはいけないということです。唯一無二の人生を幸せに過ごし、大きな価値で満たしていくためには、「自分を知る」ことと、「判断と選択」をする勇気をもつことだと思いました。もちろん、「難しさから逃げる」ために「自分らしく生きること」を正当化するのは本末転倒です。ただ、自分の人生の目的を定めて、それにコミットすること。そしてコミットしたからには、苦しさを含めて受け入れて、自分らしく乗り越えていく。その先に見える景色が、人生に真の充実感をもたらしてくれると考えました。その想いに至った時に、コーチングのコンセプトに大きな興味を持ちました。コーチングのアプローチが自分の人生の目的を発見することや、自分らしく進むための答えを見つけることに役立つと考えたからです。
 
——コーチングとはどのように出会ったんですか?
 
経理からのキャリアチェンジを決め、アメリカに留学した際にコーチングを知りました。次のキャリアでは人の人生をサポートする仕事をしたいと思っていたんです。ただ、人の人生に関わることには大きな責任が伴うので、自分には学び直しが必要だと思い、アメリカで心理学を学ぶことに決め留学しました。そこでNLP(神経言語プログラミング)を学んだんです。
 
そして、NLPコーチングというアプローチがある事を知りました。再就職の際には、キャリアカウンセラーかコーチングの会社で勤めたいと思うようになり、就職活動をしたのですが、最終的にご縁があったのは人材紹介会社でしたので、そこで第二のキャリアをキャリアカウンセラーとして歩むことになったのですが、コーチングのコンセプトやアプローチに対する興味が途絶えることありませんでした。

日本からマレーシアのコーチングスクールに飛行機で「通学」

——そしてその後、コーチングを学ぶことになるわけですよね。
 
はい、実際にコーチングスクールに通い始めたのは3社目で人事の経験を積んでいる時でした。スクールへの入学を決めたのですが、日本国内の学校ではなく、マレーシアの学校を選択しました。
 
当時は今のようにオンラインミーティングのツールが普及していなかったので、通学が必要でした。そのことから毎回マレーシアに飛行機で通うことにしました。クレイジーですよね (笑)。なぜこのような選択をしたか。それはすごく単純で、日本人のみならず、世界中の人にコーチングができる自分になりたかったからです。
 
世界中の人が人生の目的を見出して、自分らしく謳歌したら、社会がすごく元気になるなって思ったんです。自分のできる範囲内で、そんな世界作りに貢献をしたいなって。マレーシアであれば、英語でコーチングを学ぶことができるし、それ以上に多様性溢れる環境で、多様性あふれる仲間と学ぶことに大きな価値があると思いました。その環境があれば、より多くの人種や価値観を包括したコーチングを学べるなと確信したんです。
 
私は良くも悪くも単純なので、この学びを得るためにマレーシアに通学が必要ならば飛行機で通学すればいい!と想い、迷わずこの道を選択しました。以後、金曜日業務終了後に空港に直行し、深夜便でマレーシアへ。土日はマレーシアでみっちり勉強をして、日曜日の深夜便で帰国。翌朝はそのまま日本のオフィスへ出社し業務に就く、というのが日常となりました。
 
コーチングを学びたいという意欲に火をつけたのは、当時勤務していた航空会社 エアアジアの「組織風土」でした。詳細は割愛しますが、大学時代に閉ざされた私の夢、「航空会社での勤務」は18年後に実現したんです。人生は何があるかがわからなくて、本当に面白いですね。
 
色々なご縁があって、私はエアアジアの日本支社立ち上げに、人事マネージャーとして参画させていただくことになりました。マレーシア本社のオペレーションを日本に導入するための出張を繰り返していたのですが、初めてマレーシア本社に出張をした時に目にした光景にとても衝撃を受けました。みんな会社が大好きで、大きな誇りをもって働いているんです。そこから発するエネルギーはとてもパワフルで、情熱も強くて。一人一人がとても輝いていたんです。人が織りなす、カラフルな企業文化に気持ちを強く揺さぶられました。
 

▲エアアジアの仲間たち

この会社では、夢を持つことを大切にしていました。社長秘書やキャビンクルーがパイロットになった!といった類のストーリーが、現実のものとして多々存在していました。夢を実現する仲間の姿にインスパイアされた社員が、自分も未来をつかみ取ろうと、一生懸命成果を出すべく働いているんです。人生に方向性を持つこと、そして自分らしく実現することが、どれだけ人と組織にエネルギーをもたらすかを感じずにはいられませんでした。
 
こういった未来を、エアアジアジャパンでも創り上げたいと純粋に思いました。そのために身に着けるべきことを考えたときに、コーチングだと思ったんです。そして、コーチを目指すのであれば、ボーダレスで価値を提供できる自分になりたいと思い、マレーシアのスクール入学を決めました。

コーチングを組織のコミュニケーションの基盤として推進する理由

——小林さんは、現在グローバル企業の人事部長として従事されています。グローバル全体でコーチングを基礎としたリーダーシップを強化するための取り組みがされていると伺っています。内容をうかがえますか?
 
世界180か国に拠点があり、28,000人程度の従業員が所属している飲料会社で、人事部長として現在従事しています。ここでは、コーチングをベースとしたリーダーシップを強化するためのカリキュラムが推進されています。数年前にイギリス本社がグローバルファームと共同で弊社独自のコーチングモデルが開発されました。このカリキュラムは、この自社のコーチングモデルがベースとなっており、昨年までは上級のリーダーシップレベルのみが対象となっていたのですが、今年から範囲を大幅拡大し、各国のマネージャーレベル以上が対象となることになりました。
 
第一段階のアプローチとしては、全世界の各リージョンで社長・部長レベルの社員が召集され、当カリキュラムを受講します。私もシンガポールに夏に出張をし、各アジア支社から来た社長・部長レベルと共にインテンシブカリキュラム(座学・実技)を受講しました。コース修了後、受講者は自分の持ち場でコーチとしてのOJT(On the job training)を繰り返しながら、定期的にクラスメートとスキル向上のためのキャッチアップセッションを実施します。そして、第二ステージは年明け開始予定で、カリキュラムの受講者である社長・部長レベルが講師となり、外部講師のサポートを受けながら、マネージャーレベルの社員に教育をすることがスタートします。この二つのステージを通じて、社長、部門長、マネージャ―の全員がスタッフに対してコーチングができる状態を作り、コーチングをリーダーシップとコミュニケーションの基盤とし、会社の文化として浸透・定着させようとしています。

▲現職のAPAC HR Leadership チーム。シンガポールで人材戦略の話し合いをした際の一枚。

——御社はコーチングが日常になった先に、どんな未来を思い描いているのでしょうか。
心理的安全性が確保され、社員が自由に発言し、果敢に挑戦する企業風土。
失敗から素早く学び、レジリエントにより良いものを産み出す創造力。
社員一人一人が自律し、人と組織が共に成長するハイパフォーマンスなカルチャー。
 こんな未来を実現することが目標です。でも目標をただ達成すること以上に、そのプロセスがどのようなものかが大切です。社員一人一人の「多様性」が尊重され、自分らしさに「価値」を感じられるかが重要で、そのプロセスを通じて、真の意味でエンゲージメントが高い風土を実現することを目指しています。
 弊社がコーチングを強く信じる理由は、「対象者の自発性を促す」ところにあります。目標達成のための行動を強制するのではなく、その人らしい課題解決策を模索する「パートナー」としてのコミュニケーションを促進するコーチングに大きなポテンシャルを感じます。
上司が監督者として答えを持ち、的確な指示を出すことが必要とされる局面も当然ありますが、それだけでは自分で考えて行動を起こせる、「自律的な社員」は育ちません。変化が激しく、予測不可能な世の中になればなるほど、状況に応じて自ら考え、力強いアクションを起こせる社員の存在が重要となります。このような変化が激しい環境下では、上司の過去の慣習や成功経験は、そのまま通用できなくなることも多くなっていくでしょう。
「正しい答えを伝える・教えてもらう」というアプローチから、「より最適な解決策を自分で考える・共に模索する」というスタンスへのシフトが大切で、それはその人らしく成功するためのプロセスを支援する事にもつながります。自分の力で導き出した答えに対しては、より強いオーナーシップが生まれますし、アクションへの責任感も強くなります。成果へのコミットメントも高くなりますし、そこに大きな自発性が生まれます。
弊社では、Unleashing potential(可能性を解き放つ)とか、Performance Enablement(パフォーマンスを開花させる)という言葉をよく使います。人と組織が持つ可能性を信じ、それを最大に解き放つためのアプローチとして、コーチングが持つポテンシャルを弊社は強く信じています。
 
——小林さん個人としては、コーチングを皆が学んだ先に組織やメンバーがどのような状態になっているのが理想ですか?

コーチングを通じて、「なぜ働くのか?」「なぜこの会社なのか?」といった、本質的な問いへの答えをみんなで追求できる組織にし、社員一人一人のエンゲージメントが高い状態を作り出していきたいです。本質的な問いを大切にする理由は、人のモチベーションの源泉はこの「答え」の中にあるからです。人財開発、リーダー育成、組織開発、どんな素晴らしいアプローチも、この「答え」に社員一人ひとりが気が付いているかいないかが、効果に大きな違いを生みだします。

意識的にせよ、無意識にせよ、この「答え」は、必ず心のどこかにあるんです。それを掘り起こす、磨き続けるアプローチにコーチング以上のものはないと思っています。そしてその「答え」は、必ず社員一人一人の人生の目的(パーパス)と重なるはずです。個々の人生の目的と会社の方向性に強いつながりを見いだせたときに、今以上に働くことに意義を見出せると思うし、深いやりがいを感じられると思うし、それが、高いエンゲージメントはもとより、それぞれの人生に多きな価値をもたらしてくれると思うんですよね。その価値を感じて、生き生きする社員で会社を満たしたいです。みんなの「働く」をもっともっと生き生きとした、楽しいものにしたいです。

 人生の目的(パーパス)は、とても大きなテーマです。目的を考え始めることも、その最終系を定義することも、とても難しいことです。そして、目的と素直に向き合い、その目的に対して忠実に生きることは更に難しいことだなと感じます。だからこそ、価値があるんです。社員一人一人には幸せになってほしい。だから、こことしっかり向き合ってほしいです。

コーチングを基盤としたコミュニケーションを通じて、人が自分らしく、より良く生きることをサポートしたいです。そしてそんな組織風土を醸成し、その組織と仲間と共に、私たちのビジネスを通じて、社会を元気にすること。それが私の目的(パーパス)です。


小林さんは、THE COACH ICPでもコーチングコースを修了されています。インタビューの終了間際に「最後に伝えたいことがあるんです!私はTHE COACH ICPの皆さんに心から感謝を伝えたい!」とおっしゃっていました。

「実は、THE COACH ICPのコースを受講したことが私にとってのスランプを乗り越えるきっかけになりました。いまだから伝えられるのですが、受講当時は、自分に自信を失っている時期でした。自分にとって何が問題なのか、どうしたら状況を打開できるのかのイメージがつかない状態で。その「分からない」という状況がとにかくつらくて嫌でした。でも、その答えを見つける手助けをしてくれたのが、THE COACH ICPでの座学と、授業で実施するピアコーチングセッション(受講者同士がコーチングを行うセッション)でした。

とりわけ、自分のパーパスを作るワークショップが効果的だったんです。ここで、自分の人生の根本的な目的と向き合い、今いる自分を見つめなおし、行くべき方向性を見出すことができました。自分がなぜ今の会社を選んだのか、そこで何を成し遂げたいのかとかがとても明確になりました。そこから自分の仕事の見え方がどんどんとかわって。良いアイディアもどんどんと出てくるようになったし、とにかく楽しいと思えるようになりました。この実体験をした時に、改めて気が付いたんです。コーチングが持つ効果とポテンシャルに。自分と向き合う機会を創出し、人々が自分自身を発見し、自分らしく謳歌するプロセスを考えることを一緒して、その実現をサポートする。そこに生まれる世界観が、私がコーチングを通して実現したい未来なんだなと改めて思うことができました。」

THE COACH ICPで共に学び考えたことが、小林さんの組織で働くメンバーをはじめ、小林さんの周囲の人に少しでも伝わっていくとすれば、THE COACH ICPにとっても、これほど幸せなことはありません。

 THE COACHでは、自律 “共創”型組織のための法人向け人材育成・組織開発サービス「THE COACH for Business」を運営しています。組織にコーチングを導入したいと考える担当者の方は、下記ページをご覧ください。